circaのブログ

ほんでもまんで生きとるわいね

言葉の力

お題「受験」

 

春一番が吹いた後はいつも寒の戻りがある。今週は真冬の寒さに逆戻りだ。なまじ20度超えのポカポカ陽気を体験したせいか、この極寒は身にこたえる。寒さの底みたいな日に、散歩に出掛けて若干後悔した今日、たまたま昔のことを思い出していたので書こうと思う。

 

受験の話だ。

受験と言っても20代前半に、留学中に受けた試験の話だけれど。

 

わたしは学生時代、受験とか試験にめっぽう弱かった。とにかくよく落ちた。日本で学生をしていた時もよく落ちて、第一志望校に入れたためしがない。わたしが何とか入れたのは、大体第二志望、第三志望校だった。そんなわたしがイギリスへ行って、更に資格試験を三度も受ける羽目になった。語学の勉強に行ったので、何とか資格だけは取得してやるぞと意気込んで、ケンブリッジ英検というのを受けた。クリアしたい資格は三つ。でも試験は四回受けた。つまり一度落ちたのだ。一番最後に受けたCPEという、日本人にはやや難易度が高いと言われていた試験に、見事に落ちた。CPEは日本語では「特級」というらしい。日本からすい星のごとく現れて、わずか三カ月勉強しただけの一発勝負でCPEを獲得して、格好よく去って行った美人の友達がそう言っていたのを思い出す。

 

CPE / CAE / FCE | ケンブリッジ英語検定

↑ こんな感じの試験です。

 

本番に弱い上に、あの頃から見た目とは裏腹にメンタルが弱かったわたしは、CPE不合格の通知に凹みまくった。最初のトライの時、20人くらいいたクラスメイトの中で、この試験に落ちたのは、わたしともう一人の日本人男子だけだった。

 

職員室でも「日本人のY子には、この試験の合格は無理だろう」と言う先生まで現れる始末だった。それでも中には、わたしを信じて「もう一度頑張ってみよう」と声をかけてくれる先生も何人かいた。さんざん悩んだ結果、秋の学期にわたしは再び学校に戻り、12月に再度CPEを受験することにした。

 

二度目の挑戦に向けて勉強を再開した頃には、わたしの学費はすでに底を尽きていた。いつまでも日本に戻って来ない娘に愛想をつかした母親は、仕送りをストップ。勉強を続ける前に、学費を何とか工面しなければならなくなった。わたしは校長先生に直談判して学費を少し安くして貰い、幼なじみはお父さんに手紙を書いてくれた(当時おじさんはお元気でご存命だった)。おじさんはわたしの為に、快く日本から学費を送金してくれた。その学費を全額返すのは、後にわたしが通訳者になってからのことになる。とにかくそんなこんなでわたしは、受かる見込みなど全くない難関に、再挑戦を始めたのだった。

 

あの時ばかりはCMの金ちゃん並みの勢いで猛勉強した。

youtu.be

わたしが二度目の挑戦で合格出来たのは、確かに自分自身の頑張りもあったと思うけど、もう一つ、ある先生との出会いがわたしを合格へと導いてくれた。今でも忘れられない、先生の言葉がある。寒空の中を歩きながらそれを今日、ふと思い出した。

 

本番に弱く、打たれ弱いわたしの性格を、その先生はいち早く見抜いていた。メメットという名前の先生だった。先生は試験を一か月後に控えたある日、クラスで生徒達にこんな質問をした。

 

メメット:12月◯日(試験日)はみんな、何をする?

生徒一同:CPEの試験を受けます。

メメット:そうだな。じゃあY子、君は何をするんだ?

Y子:わたしもCPEの試験を受けます。

メメット:イヤ、違うな。君はそれだけじゃダメだ。

Y子:へ?

メメット:君は12月◯日に、CPEの試験に合格するんだ。言ってごらん。

Y子:えー・・(弱気全開で絶句)

メメット:いいから口に出して言ってごらん。

Y子:えー・・、わたしはそのー・・、12月◯日は、CPEの試験にごー、合格・・します。

メメット:声が小さい。合格する! はい、もう一度。

Y子:ご・・うかく・・します。

生徒一同:大笑い

 

と、このやり取りが実に、試験の当日まで毎日続いたのだ。

クラスメイト達は面白がって、休み時間にわたしの顔を見るとメメットと同じ質問をするようになった。みんな笑っていたけど殆どのクラスメイトが、わたしのことを本気で応援してくれた。僕も(わたしも)合格するから、Y子も一緒に合格しようと、励ましてくれた。

 

メメットの心理戦は、思いのほかわたしの意識を変えてくれた。合格なんて100%無理だと思い込んでいたわたしの心に、ほんのわずかだけど「イヤ、絶対に無理、ということはないかも知れない」という希望が、日を追うごとに芽生えていった。根が弱気なので、過剰な自信にまでは至らなかったけど、わたしの中に意識の変化があったのは確かだ。

 

そしてクリスマスの二週間くらい前、12月◯日(もう日にちは忘れてしまったけど)に、わたしは二度目の受験をした。そしてメメットの言葉通り、本当にCPEを合格したのだった。受験勉強も勿論大事だけど、試験に合格するには自信を持って挑むことも大事なのだと、あの先生が教えてくれた。そして先生は、わたしに自信を持たせるために、自信のつく言葉だけを、ずっと言い続けてくれたのだ。メメットはわたしの、イギリスの金八先生だった。

 

今でもわたしはしょっ中自信をなくす。そんな時は、「わたしはダメだ」は頭の中から削除して、「わたしは出来る」に置き換えてみる。気分が悪い時は「気分いいな」と、逆のことを敢えて口に出して言う。いい歳をしたわたしは、今でもこんなことをつぶやきながら過ごしている。受験とはほぼ無縁の年齢になった今も、メメットがあの時教えてくれたことは、わたしの暮らしに応用されて、ちゃんと生きているんだなと、灰色の空の下を歩きながら思った。暗示だ。根拠なんかなくてもいいから、ひとまず自分をいい方へ暗示にかけてみる。言葉の力って、けっこう凄いから。