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circaのブログ

ほんでもまんで生きとるわいね

わたしの数少ない不思議体験

お題「誰にも信じてもらえない体験」

 

21歳の時、短大時代の同級生が亡くなりました。自宅マンションの屋上から飛び降りて、自殺でした。彼女は亡くなる直前に、友達と夏休みの計画を立てていて、旅行先の航空券やホテルまで予約していたと聞きました。遺書もなく、何故彼女が若くして死を選んだのか、その理由は未だに分かりません。仕事上でもプライベートでも思い当たる節がないと、誰もが口々に言っていました。

 

夏の暑い日、友人達と彼女のお通夜へ行きました。当時わたし達は社会人一年生で、会社帰りにそれぞれの職場から都内の斎場へ向かいました。棺にしがみついて、彼女のお母さんが泣き叫んでいました。彼女が亡くなる約一年前、原宿のカフェを貸し切りにしてクラス会を開いた時、彼女とわたしの二人で幹事をしたことを思い出しました。クラスの中で東京生まれの東京育ちは、わたし達二人だけでした。それで、都内の洒落たお店を探して欲しいとクラスメイトから頼まれて、二人で幹事を引き受けたのでした。その彼女が今、目の前の棺の中で、物言わず横たわっているなんて・・。信じられない気持と、「どうして?」という答の出ない問いが頭の中でぐるぐる回っていました。若かったわたしは、これまで経験したことのない、重く苦しい、やりきれなさでいっぱいの気持を引きずりながら、斎場を後にしたのを覚えています。

 

その夜のことです。

 

いつものように窓を開け放してわたしは眠りました。夏とは言っても、30年近く昔は酷暑という言葉すらまだなくて、熱帯夜というのも殆どない頃でした。

 

わたしは夢を見ていました。夢の中に、自宅の玄関が見えました。そして玄関の外に、白い服を着た女性が立っているのが見えました。咄嗟にわたしは「彼女が来た」と思いました。死んだ同級生が玄関の外に立っていると、夢の中で何の根拠もなく、でも本能的に思ったのです。

 

次の瞬間、彼女はわたしの枕元に座っていました。足音もなく、まるで瞬間移動して来たかのように、玄関の外に立っていた彼女はわたしの枕元に腰をおろしていました。そしてわたしの耳元で何かを話していました。でも余りにも小さな声なので、彼女が何を言っているのかまるで聞き取れません。わたしは夢から覚めていました。或いは、覚めていると思っていました。怖さの余り部屋の電気をつけたくて、起き上がろうとしました。でも身体はまるで動きません。頭ははっきりと覚醒しているのに、身体は鉛のように重く、自分の意思では全く動かせないのです。

 

小声で何かをつぶやく彼女が、わたしの頭を撫でていました。言いようのない恐怖心の中、身体が動かないわたしは、髪の毛に触れる冷たい指の感触に全身鳥肌が立つのを感じていました。でも身体はおろか、声を発することも出来ません。異質なことが自分の身に起きている。わたしがあの時感じたのは、言いようのない恐怖心だけでした。わたしの髪を撫でているのは、かつての級友かも知れないのに、わたしは怖いと思う以外、何も感じることが出来ませんでした。そしてそこで、記憶は途絶えました。

 

目が覚めると、わたしは大急ぎで部屋の電気をつけました。枕元を見たら、誰もいません。玄関を見に行く勇気は、その時はありませんでした。でも部屋の隅にある鏡台に映る自分の姿をふと見た時、思わずぎょっとしました。顔から、吹き出すように汗がしたたり落ちていたのです。夏の夜とはいえ、深夜2時を過ぎた当時の室温はそれ程高くはなく、これまでに全身から汗が吹き出したことなど一度もなかったのに。短い髪の毛はびっしょり濡れて、顎を伝って首にまで汗がしたたり落ちていました。

 

彼女は何かをわたしに伝えに来たのだろうか。今でもあの夜の出来事を思い出す度に考えます。それともあれは、友人を亡くした極度のショックが見せた夢だったのか・・。今でも、本当のことは分からないままです。後に友人達から聞いた話では、あのお通夜の夜、わたしはまるで何かに憑かれたかのように泣いていたそうです。彼女とわたしはそれ程親しい間柄でもなかったので、皆はわたしの取り乱しように、少なからず驚いたと言っていました。

 

彼女を死に追いやった原因は何だったのか、それを知る術は今はもうないけれど、お題スロットを見てあの夜のことを思い出したので、書いてみました。

 

あれから、どれ程月日が経っただろう。

若くして永遠の眠りについた彼女の魂が、今は安らかであることを祈りつつ。