circaのブログ

ほんでもまんで生きとるわいね

お金はコワイよ

コーヒーが切れたので、散歩のついでにスーパーに立ち寄った。パンも牛乳も残り少ないから買っていこうと思い、スーパーの中をのんびり歩いていた。

 

「おはようございます!」と、元気な声がした。顔を上げると、自治会役員のMさんが笑顔でこちらを見ていた。おはようございますと、わたしも笑顔で返す。お互いすっかり冬の装いだった。

 

今年は、自治会の役員をやっている。ここいらの住人が持ち回りで自治会を運営している。微力ながらわたしも、幾つかの自治会の仕事を掛け持ちでお手伝いしている。

 

昨年度から自治会の規約が変わって、役員に報酬が出ることになった。役員会に出る毎に、一回1,000円が支払われる。近隣住民の多くが高齢化して、そして集合住宅の在り方も随分と変化して、今では自治会役員をやりたがらない、或いは持病のために出来ない人が増えた。今季も、役員を決めるだけで3ヶ月もかかった。誰もやりたがらない自治会を円滑に運営する苦肉の策として去年から、完全ボランティア制を廃止して、わずかでも金銭を受け取れる報酬制になったらしいのだ。住民の猛反対があったものの、現会長はこの方針を貫いた。

 

そのおかげか、最近はいやいやでも役員達が会合に出てくるようになった。わたしは正直、報酬がなくてもいいと思っている。でも夏に、わたしと同じ考えの役員さんが報酬制に異を唱えて大騒ぎになったことがあった。自治会を昔ながらのボランティア制に戻してしまうと、役員達の多くははまた去ってしまうらしいのだ。で、わたしは沈黙して大多数の意見に従うことにした。それでもわたしは、役員全員が集まる会合の時しか報酬を受け取らないことにしている。自治会の仕事で一人で役所へ行ったり、自宅で文書作成などをする時の分は、請求しない。大した仕事量ではないので、いちいちお金を請求する気にもならないのだ。

 

思いがけず、最近この報酬制のせいで、思わぬトラブルが発生した。自治会の会長は、たとえ微細な仕事であっても、役員報酬として1,000円を幾度も請求して受け取っている。それに対して、自治会で一番仕事量が多くて長時間拘束されている役員には、仕事の大半を「ボランティア」として処理してくれと、会長から言われているらしいのだ。自治会役員達は皆、円滑に個々の任務をこなしていると思っていたら、実は報酬額の不公平で大もめしていた。会長だけが甘い汁を吸っているのはずるい。役員達の不満の種はこれだ。でも不満に満ちた役員達の話を、わたしは話半分で聞き流す。平静さを欠いた人の話はいつも、どこまでが本当か分かったものじゃないからだ。会長に特別な思い入れがある訳じゃないけれど、わたしはどちらの側にもつかず、黙って見ている。向こう三軒両隣って昔は言ったもんでね。そう言って笑っていた役員達は何処へ行った。今じゃ皆、鬼の形相じゃないか。勿論、そうじゃない役員もいるけれど。そういう人達はわたしと同じように、黙ってことの成り行きを見守っている。

 

お金は、誰だって欲しい。わたしだって欲しい。でもお金はこんな風に、トラブルのもとにもなり得る。だからやっかいなのだ。だからわたしは、自治会から最低限の報酬しか受け取らないようにしているのだ。それでもチクリと嫌味を言われたけどね。苦笑いしながら恐縮ですと、頭を下げてきたけれど。

 

昨日まで笑顔で井戸端会議に華を咲かせていた者同士が今日は、あなたの方が報酬が多いじゃないのと、嫌味とねたみに満ちたバトルを展開しているのだ。わたしの家の前で。聞くに耐えない罵詈雑言。罵り合う人達はゆうに70を越えた大人だ。ああ、大人なのは歳だけだと、心の中でつぶやく。お金が絡むと、70のお年寄りも手のつけられない子供のようになる。

 

コーヒーや牛乳の代金をレジで支払う。財布から1,000札を取り出しながら、心の中でわたしはまたつぶやく。『所詮はただの、紙切れなのにな』

 

ご近所に、お金の無心をすることで悪名高いMさんも、笑顔でスーパーを去って行った。

 

ああ、お金はコワイ。

お金を前にすると、どんなにいい人でも、その人の本質が見えてしまうから。

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